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ソフトウェアサブスクリプションの多くの利点と少ない欠点

私が最初に使ったMicrosoft Officeのバージョンは、当時はまだ箱入りのディスクで、支払いはドイツマルクでした。しかし、メールプロバイダーがセキュリティ基準を変更したことで、私の大切なMicrosoft Outlookは機能しなくなりました。つまり、新しいバージョンのMicrosoft Officeを購入する必要があったのです。長年使い続けたソフトウェアを新しいバージョンにするために、高いお金を払わなければならないことに対し、私はとても憤慨しました。他の分野では、古い製品の新しいバージョンを買うことは当たり前です。ヨーロッパ人が、一生涯に購入する車は10台以上といわれています。そして、私たちはお気に入りのアルバムを、最初はレコード、次はカセット、そしてCD、ダウンロード、そして今はストリーミングで、何度も何度も買い続けています。

この難問を解決する鍵は、サブスクリプションサービスにあります。サブスクリプションサービスとは、ソフトウェアパッケージの数分の一の費用で、常に最新のバージョンのソフトウェアを決められた期間使用できるサービスです。数年ごとに定価を支払う必要はなく、最新のセキュリティと安全性が保証されています。一方、提供者側は、確実な収入源と、将来の開発や新製品に向けた計画や予算に必要な見通しを得ることができます。

ライセンスモデルの種類

ソフトウェアの分野では、メンテナンスサブスクリプションとソフトウェアサブスクリプション(およびその組み合わせ)が典型的なモデルとして確立されています。メンテナンスサブスクリプションでは、エンドユーザーはまずソフトウェアを直接購入し、定期的な更新と高頻度の限定サービスを受けるための保守契約を締結します。保守契約が有効である限り、エンドユーザーは常に最新バージョンのソフトウェアを入手することができます。保守契約が終了または解除された場合には、その最新バージョンからの更新は停止されます(但し、使用することは可能です)。

一方ソフトウェアサブスクリプションでは、エンドユーザーは最初にソフトウェアを購入する必要はなく、通常のサブスクリプション契約を締結します。しかし、サブスクリプションが終了した時点で、そのソフトウェアを使用する権利は失われ、古いバージョンも使用できなくなります。つまり、エンドユーザーになるための敷居はメンテナンスサブスクリプションよりはるかに低いですが、サブスクリプションをキャンセルするための敷居は非常に高くなります。両者のオプションの背後にある仕組みは、全く同じです。サブスクリプションの購入後、エンドユーザーは、契約が有効である限り、定期的に更新されるライセンスを取得することができます。メンテナンスサブスクリプションでは、保守サービスを利用できる期間(メンテナンス期間)が、ソフトウェアサブスクリプションでは、ソフトウェア自体のライセンス(有効期限)が延長されます。契約の解除後、ライセンスの更新が停止、または有効期限が契約終了時に変更されます。

価格設定の考え方

最近読んだ記事では、サブスクリプションライセンスの技術的な仕組みが詳しく解説されていました。本記事では、商業的な観点、つまり価格設定と収益の面からサブスクリプションライセンスについて詳しく説明します。具体的な例を挙げましょう。例えば、5000ユーロ(約685,000円)で販売されているソフトウェア製品があるとします。サブスクリプションのオプションがない場合、エンドユーザーはソフトウェアの更新サービスを購入することができますが、通常、最初の購入から2~3年は半額で購入することができます。この例では、2500ユーロ(約342,500円)で購入することになります。万が一、エンドユーザーが何度も更新をしなかったり、3年を超えたりした場合には、全パッケージを再び全額負担で購入する必要があります。

メンテナンスサブスクリプションの場合、年間メンテナンス料金は購入価格の12~25%、つまりエンドユーザーは5000ユーロ(約685,000円)の製品ライセンスに加え、600~1250ユーロ(約82,200~171,250円)のメンテナンスサービスを追加で支払う必要があります。

月々のメンテナンスサブスクリプションは通常、購入価格の2~5%、つまりこの例では1ヶ月あたり100~250ユーロ(約13,700~34,250円)支払います。契約によって、支払いは月、四半期、半年、1年単位になります。

想定されるメリットとデメリット

具体的な例から、メリットとデメリットについて考えてみます。まず、初年度に100人の新規顧客が製品を購入し、この数を毎年5%ずつ増やすことができると仮定します。また、購入価格の半額で更新サービスを提供し、現在の顧客の半数がそのサービスを購入すると仮定します。これは、購入モデルの典型的なリスクのうちの一つです。ワクワクするような新機能がなければ、更新サービスを購入しようと思うエンドユーザーはほとんどいないでしょう。

メンテナンスサブスクリプションと比較するため、75%のエンドユーザーが購入価格の20%で保守契約を購入し、そのうちの10%が毎年契約を解除すると仮定してみましょう。

サブスクリプションライセンスの場合、月額料金は購入価格の4%、解約率は年間5%、そしてより魅力的な支払い方法に惹かれるエンドユーザーが25%増えると仮定することができます。ソフトウェアサブスクリプションを解約したエンドユーザーは、(メンテナンスサブスクリプションの購入者と比較すると)製品の恩恵を全く受けることができなくなるため、このような思い切った決断をしてソフトウェアの使用を完全に止めてしまうエンドユーザーは大幅に減ります。

この比較では、長期的にみると、サブスクリプションライセンスが従来の購入方法よりも優れていることがわかります(たとえ新規顧客が25%増えるだけで、新規モデルを売ることができたとしてもです)。このデータでは、特に既存の製品をサブスクリプションサービスに移行する必要がある場合、最初の数年間は収益の低迷を覚悟する必要があることを示しています。サブスクリプションの導入には、粘り強さと忍耐が必要です。新製品や新市場をサブスクリプションモデルで導入し、既存製品も徐々にサブスクリプションモデルへと移行していくことが得策です。

一方、メンテナンスサブスクリプションは、基本的にリスクは無く、エンドユーザーを維持することができれば、長期的に魅力的な収益が期待できます。新規ライセンスよりもメンテナンスサブスクリプションから得られる収入の方がはるかに多いという企業も珍しくありません。新しいサブスクリプションサービスの最終的なビジネスプランは、すべてのケースで市場と顧客の好みを考慮する必要があり、どのような試算や予測も意思決定者の参考程度にしかなりません。

恩恵を受ける人たち

提供者にとってのメリットは明白です。メンテナンスサブスクリプション、さらにはソフトウェアサブスクリプションの場合、商業的リスクを抑えつつ、継続的かつ予測可能な新たな収益源を獲得することができます。さらに、エンドユーザーも、特にソフトウェアサブスクリプションから恩恵を受けることができます。最も直接的なメリットは、参入コストが大幅に削減されるという点です。Microsoft Office製品のフルパッケージに200~300ユーロ(約27,400~41,100円)を費やす代わりに、サブスクリプションに月10ユーロ(約1,370円)支払うだけでよいのです。もう一つの利点は、最新のセキュリティ標準を備えた最新バージョンのソフトウェアに常にアクセスできる点です。最初はそれほど明白ではないかもしれないが、すぐにそのメリットを実感できるはずです。更新の度に、新しいソフトウェアバージョンを購入する必要はないのです。

より優れたフィーチャーセットも、典型的な利点のひとつです。一般的な購入者は、購入時点で必要なアプリケーションや機能にのみお金を支払いますが、サブスクリプションユーザーは、より広範囲のフィーチャーや機能にアクセスすることができます。例えば、Excelの特定の機能は、サブスクリプションに含まれていなければ気付かなかったが、利用できる状態であればお気に入りの機能になるかもしれない、というようなことはないでしょうか。

サブスクリプションは、音楽産業では一般的であり、自動車産業においても徐々に普及しつつあります。CDを購入せず、ストリーミングサービスに加入し、追加料金無しで、最新の音楽を聴く人々は増えています。音楽ライブラリのすべてを聴いている人は、少ないです。ブラジリアンメタル、ユーロポップ、80年代の一発屋、これらすべてを熱烈に愛している人は、ごく少数に過ぎません。これらの例やビデオストリーミングサイトの成功が示しているように。サブスクリプションの時代はこれからも続いていきます。

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